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オフィス宮崎では「コープロ」と呼ばれる印刷形態の書籍翻訳を数多く手がけています。「コープロ」というのは、Coproductionの略なのですが、ずいぶん前からグローバルな出版の世界ではよく聞く言葉でした。

『ヒプノシス・アーカイヴズ』もコープロ翻訳のひとつ
『ヒプノシス・アーカイヴズ』もコープロ翻訳のひとつ

コープロとの出会い

オフィス宮崎がこの「コープロ」に初めてかかわったのは、はるか昔、「望遠郷」というフランスのガリマール社が出しているトラベルガイドのシリーズを翻訳したときでした。私どもはフランス語から日本語への翻訳しか担当していませんでしたので、コープロがなんだかなんて、知る由もありませんでした。その後、なにかの手違いで私どものちいさなオフィスに来た巨大なクレイト(木枠)におさまったフィルムの束を目撃したとき、初めて、何が起きているのかを知りました。つまり、日本語の活字の部分だけをフィルムにして彼の地に送り、原書の出版社が取り仕切って集めた何か国かのテキストを、カラー図版のフィルムと合体して印刷していたのです!

3000点以上の図番、大迫力のヴィジュアル図鑑! 『生物の進化 大図鑑』
3000点以上の図番、大迫力のヴィジュアル図鑑! 『生物の進化 大図鑑』

『生物の進化 大図鑑』を翻訳する

それから20年ちかくたったある日、河出書房新社という出版社から共同作業が大得意なオフィス宮崎にぴったりのお仕事の打診がありました。誰かがその本のことを「恐竜大図鑑」と間違えたとき、そんな子供だましの本じゃなくて、きわめて専門的な目で見る学術書じゃ、と社内のだれかがキレる声が聞こえてきた『生物の進化 大図鑑』です(「恐竜」をバカにしてるわけじゃありません!)。
オフィス宮崎のパートナーたちはこれをゼロから翻訳し、今は亡き偉大なる古生物学者の小畠郁生先生が監修してくださり、ベテラン編集者の柳嶋覚子さんが編集指揮をとり、驚異的なInDesign使いの関川一枝さんがレイアウトし、テキストのデータだけをイギリスDK社に送ったら、忘れた頃に素晴らしく立派なフルカラーの図鑑となって戻ってきました。これがオフィス宮崎のコープロ初体験でした。海のものとも山のものともわからないオフィス宮崎に、こんなすごい仕事を発注してくださった河出さんの勇気に感謝です!
そう、優秀な翻訳者が翻訳だけやっていると思われていたオフィス宮崎には、優秀な編集者ととびきり優秀なDTPのオペレーターが隠れていたのです!
それ以来、調子に乗ってやらせていただいたコープロ作品は10点を超えてしまいました!
順にタイトルを挙げてみると『人類の進化 大図鑑』『地球 驚異の自然現象』『ファッション』『太陽系惑星大図鑑』『世界の航空機 大図鑑』『なんでもまる見え大図鑑』『ヒプノシス』『ピクチャーペディア』『コンプリート・モータウン』『医学の歴史 大図鑑』『ビッグヒストリー 大図鑑』……。まだまだ続くのでしょうか。

宇宙の誕生から現在までの新しい歴史学を扱った『ビッグヒストリー 大図鑑』
宇宙の誕生から現在までの新しい歴史学を扱った『ビッグヒストリー 大図鑑』

「コープロ」の翻訳作業

オフィス宮崎が手掛けるコープロ作品は大図鑑モノが多く、翻訳する量が膨大です。最近のものでは『ピクチャーペディア』で18万ワード、『ビッグヒストリー』では15万ワード。これを一人で翻訳するとなるとかなりの大仕事となり、時間もかかってしまいます。ですから、出版社の提示したスケジュールに沿うように、基本的には数人で分けて共訳しています。
オフィス宮崎の仕事は翻訳者の選定から始まります。たとえば『ビッグヒストリー』では、宇宙の始まりであるビックバンの章を翻訳するには物理学の基礎が、後半の人類史の章では世界史の知識が必要になります。翻訳者にも得意な分野がそれぞれありますから、原書の内容に応じてそれぞれの章に適した翻訳者に仕事を依頼します。訳稿が届き始めると、その原稿はオフィスでも確認しますが、チェッカーと呼ばれる専門のポジションの人に渡します。原文と翻訳を逐語的に確認し、また翻訳が日本語として自然かどうかを確認するのです。そしてこのような繰り返しの作業のなかで、訳文がブラッシュアップされていきます。

5000年以上にわたるファッションの変遷がわかる『FASHION 世界服飾大図鑑』
5000年以上にわたるファッションの変遷がわかる『FASHION 世界服飾大図鑑』

原書にあわせたレイアウト

以上はテキストを制作していくプロセスですが、「コープロ」で一番といっていいほど肝になるのはDTPといわれるレイアウト作業です。原書の英語部分を日本語に置き換え、原書のデザインをそのまま残して、日本語版をデザインしていくのです。原書は原書ですでに完成したデザインですから、それを日本語でも同じように実現するのはかなり骨の折れる作業です。そもそも英語を日本語にすると文字の分量は確実に増えます。何文字減らせば元のデザインにうまく収まるか。DTP担当のデザイナーからフィードバックが来ると、原文と訳文を照らし合わせて、どのように文字数を減らすか、頭をひねります。日本語表現を変えることで対応できることもあれば、情報を減らさないと収まらない場合もあるので、どこをカットするか、悩みどころです。翻訳者・チェッカー・DTPオペレーターと何度もやりとりを重ねながら少しずつ日本語版が出来ていくのです!

紙の本がなくなるといわれて久しいですが、ずっしり厚みのある大図鑑を机に広げる楽しみは永遠だと思いたい。

 


生物の進化 大図鑑


著者 マイケル・J・ベントン


日本語版総監修 小畠郁生


言語 英語 → 日本語


判型 単行本
出版社 河出書房新社
発売日 2010.10.26